(在原滋春)
浪(なみ)のうつせみれば たまぞみだれける ひろはば そでにはかなからむや
波が打ち寄せる瀬を見ていると、美しい宝石が乱れ散っている。拾い上げて袖に包んだなら、袖の中で儚く消え去るのであろうか。
波が打ち寄せる瀬を見ていると、キラキラと輝く宝石のような水滴がいくつも広がる。
しかしどれも、すぐに消えて無くなる。
無常( =空蟬(うつせみ))のように。
無常とは、万物は生滅流転し、永遠に変わらないものなど1つもなく、人の命もまた同じ、そしてとても儚い、という事。
つまり、
打ち寄せる波の美しいしずくを、万物の命と見立て、美しくもはかなく消え去る無常を詠んだ、そんな歌なのだと思います。
いくら無常を美しく歌おうが、切なく歌おうが、この当時の人は、今一人として生きていない。
私たちも、この時代を生きていた人として消えていく。
それが無常ですが、それがどこかたまらなく美しく感じるからこそ、不器用にでも一生懸命に生きていけるのかもしれませんね。