『親が目も離さず大切にしている娘と、内密に逢って話をしているうちに「親が呼んでいる」と侍女が言うので、娘は急いで帰るといい脱いでいた裳をそのままにして、奥へ入ってしまった。その後にその裳を返すと詠んだ歌。』
おきかぜ
あふまでの 形見とてこそ とどめけめ 涙に浮ぶ もくづなりけり
次に逢うまでの形見として残していかれたのであろう。しかしこの裳を見ると、あなたを想い涙がこぼれてしまう。この裳は涙の海に浮かぶ藻くずであるよ。
男性は女性の残した裳を持ち帰り、女性に対してこう歌っています。
裳と藻を掛けているところにセンスが光ります。
これは女性が慌てていたが故に、裳を身に付けるのを忘れて奥へ入ってしまったのか
男性への形見として置いて行ったのか
男性側は、自分のために置いて行ってくれたという捉え方をしていますが、実際はどうだったのでしょう。。。
どちらにせよ、情景を目に浮かべると、何だかクスっと笑ってしまうエピソードです。
ちなみに裳とは、平安時代には女性が腰に当てて結び、後ろに垂らして引くもの。
民族衣装文化普及協会よりお写真をお借りしました
この裳を持ち帰り、女性の残り香とともに女性への想いに泣く男性
その涙で浮かぶ裳はもはや藻であると。
この描写をストレートに、現代の時代背景で考えてしまえばゾッとしてしまうかもしれませんが。。。
和歌はその時代の風土を知る歴史書でもあり、ロマンスでもあり、エンターテイメントでもあります。
本日はロマンティックな恋歌、ご紹介させていただきました。
ではまた。